秋のおすすめ図書
~足立区のおちこぼれがバングラデシュで起こした奇跡~
「前へ!前へ!前へ!」」税所篤快著
ようやく秋らしい天気になってきましたね。今、マイコプラズマが大流行中です。実は私もかかってしまい、3日程度高熱が続きました。特に受験生のみんなにとって11月は受験校を決める大切なテストが続きます。勉強時間を確保しつつ、しっかり食べて、しっかり寝る規則正しい生活を心がけてください。
今回は読書の秋ということで本を紹介したいと思います。
この本は、将来自分で事業を起こしたいと考えている人やボランティアに興味がある人にもピッタリだし、受験生のみんなにとってもすごく共感できる内容だし、生徒達をサポートするカイチの先生達にも是非読んで欲しい、そんな1冊で何度もおいしい素敵な本です。
題名は~足立区の落ちこぼれがバングラデシュで起こした奇跡~「前へ!前へ!前へ!」」税所篤快著。
高校3年生にあがる春、偏差値28だった“東京都足立区の落ちこぼれ”税所篤快。彼女に振られたショックから、「世界に出て、修行して一人前の男になる」と一念発起し、読書に没頭。その中で彼の人生を変えることになる1冊、「グラミン銀行を知っていますか」(坪井ひろみ著)に出会います。
グラミン銀行とはノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士が総裁を務めるバングラディッシュの銀行。たった24ドルから「貧者のための銀行」を初め、「貧者にはチャリティーではなくソーシャルビジネスを」「施しではなく尊厳を」を理念にバングラディッシュ全土に展開、貧困女性の自立に多大な貢献をしています。
彼はこのグラミン銀行に強く興味を持ちます。すぐにこの本の著者、坪井ひろみさんと連絡を取り、グラミン銀行を紹介してもらいバングラデシュへ。そのわずか2年後には、バングラデシュの貧しい農村部に、自分が学び成績を伸ばした東進衛星予備校のシステムに着想を得た、同国初の映像教育プログラム「e‐Educationプロジェクト」を発足。
教育格差の激しいバングラデシュで、進学を諦めていた農村部の子供達を集め、現地の高校生達と、国立最高峰のダッカ大学を目指します。まさにバングラデシュ版ドラゴン桜。果たして、彼らは夢を現実に変えられるのか!?
22歳の著者が、自身の成長ストーリーを描いた実話です。
読んでいて、疾走感がある気持ちの良い本でした。特に、主人公であり著者である税所さんの行動力が凄まじい。「良い!」と思ったらなりふり構わず行動し、失敗を繰り返しながらも、出会うべき人と出会いながら、様々なプロジェクトに取り組んでいきます。しかし、その行動力が故に、周りとの確執を招き失敗を重ねてしまいます。失意に沈む中、彼が提案した「e-Educationプロジェクト」に対してユヌス博士が発した言葉が、この本の題名にもなっている「Do it!! Do it!! Go Ahead!!」(前へ!前へ!前へ!)という言葉です。このシーンにはしびれます。
今の世の中はとかく、周りの目を気にしがちで、こんなことをすると周りにどう思われるだろうと立ち止まり、ネットで少し調べてネガティブな情報を見ると、「やっぱり無理」と諦めてしまう。私は、社会にはびこる「病み」の原因は、あまりにも生活に入り込み過ぎているネットやSNSのせいで、頭で考えてばかりで行動しないことにあるのではと考えています。
税所さんは、見たいものを見に行き、会いたい人に会いに行く。成功することも失敗することもあるけれど、結果として幸運な偶然と出会いながら、自分の目指す姿に近づいていきます。先月号の記事でも書いた、竹馬で琵琶湖一周の豊野先生も話していましたが、困った時には偶然にも周りの人が手を差し伸べてくれて何とかなったと話していました。
これは私自身の経験によるところもありますが、原則人生は何とかなるものかもしれません。でも、それは行動する人限定です。時には自分の直感を信じて、些細な事からでもやってみる。知らない所に飛び込んでみる。行動することで、目の前の現実が変わり、自分の気持ちもどんどん変わっていきます。ワクワクは行動の中にしかない、税所さんは、そんなことを教えてくれている気がします。
また、バングラディッシュの受験生達の姿も素敵です。バングラディッシュでは豊かな家の子しか、予備校で受験用の勉強ができず大学に入れません。また、女の子は義務教育すら満足に受けられない子もいる。そんな現実を変える一筋の光が、税所さんが持ちこんだe-Educationでした。彼らにとって大学に合格することが、格差をぶち破る唯一の方法です。私は数年前にカトリーナ先生のコーディネートでフィリピンの公立・私立小・中学校を訪問しました。その時に感じたことも、彼らにとって「学ぶことは生きること」なのだという感覚でした。フィリピンでは話す言語、母国のタガログか、英語か。またその英語が流暢かどうかでエリートかどうかを見分けられてしまうそうです。学ぶことが、生きることと繋がっている。授業を受けている子供達のエネルギーが違うと感じたのを今でも覚えています。この本の中では、女の子達がお父さんを説得して、受験勉強に挑む姿が書かれていますが、学ぶことへの真摯な姿勢に胸を撃たれます。
そして、最後に生徒達を支える先生達の熱さです。何とか生徒達の思いと努力を無駄にしないように一流の予備校講師をスカウトして連れてきたり、エリートのダッカの予備校生達と共に学ぶ機会を設けたり。
この本を読んでいると、昨年の中3生の最後の自習で、生徒達を激励するカイチの先生達の姿を思い出しました。話をするどの先生も感極まって泣き、生徒達がそれを真剣に聞いている。日本でもバングラデシュでも、受験がそれぞれの人生を、それぞれの努力で切り拓く大切な機会であることに変わりがないのだなと思いました。
長々と書いてしまいましたが、秋の夜長のお供に、是非お勧めです。
<塾長 高木秀章>